独断と偏見による名作コミックベスト10

6組 鎌田一孝
ここいらで、ちょっとコーヒーブレイク......
 
有名コミック、例えば「巨人の星」・「あしたのジョー」・「ゴルゴ13」・「鉄腕アトム」など数多くありますが、ここでは世にあまり知られていない名作といえるコミックを紹介したいと思います。順位は甲乙つけがたい作品ばかりが並んでいるので、強烈な印象を受けた順だと思ってください。
また、1作者1作品に限定しました。
 
1位 柔俠伝・昭和柔俠伝シリーズ  バロン吉元
  「柔俠伝」、「昭和柔俠伝」、「現代柔俠伝」全シリーズは、私の人生の指南書となった。よって1位に挙げた。この後、「男柔俠伝」、「日本柔侠伝」、「新・柔侠伝」と続く明治から現在にかけての親子4代に亘るファミリーヒストリーである。もっとも「新・柔俠伝」はそれと匂わせるだけに終わっているが。このうちの「柔俠伝」・「昭和柔俠伝」と「現代柔俠伝」の中盤までは、学ぶことが多かった。今、私が放蕩無頼な生き方をしているのもこの漫画のせいだろう。
  しかし、隠れファンがいることも確かで、あがた森魚も唄にしているし、「現代柔俠伝」のヒロイン「茜ちゃん」はサントリーの「樹氷」のモデルでラベルにまでなった。
  このシリーズは、時代考証もよくできていて戦後の混乱期などよく描けていて、歴史を学ぶにもよいシリーズではある。ただ、「男柔俠伝」以降はちょっと現実味がなくなり、おふざけも多く入っているので、コミックとしては持っていない。
 高校の塾の帰りにいつも寄っていた丸新の裏にあった中華料理店「末廣亭」で読んだ漫画アクションで連載されていた「柔俠伝」を初めて知った。そして大学時代の柔俠伝のコミック初版3巻を今でも持っているし、「昭和柔俠伝」、「現代柔俠伝」も全巻復刻版を所有している。ときどき読み返しては、生き方のバイブルにしている。
 
2位 離婚倶楽部  上村一夫
  上村一夫と言えば、「同棲時代」が有名だが、この「離婚倶楽部」は全1巻である。上村一夫独特の曲線美で描かれる女の色っぽさがストーリーと相俟って、いやが上にも水商売の女の哀しさを滲ませている。
  ちょうど私が飲んだくれていた昭和49年の作品である。うわっ、びっくりしたぁ…。制作年を調べているとホームページがあった。
http://www.mandarake.co.jp/publish/rikonclub1/
一度、ご照覧あれ。
 
3位 白いトロイカ  水野英子
  小学校5年生の頃、中耳炎で通っていた庄野医院の待合室に置いてあった週刊マーガレットの連載漫画である。当時の少女漫画の中では、帝政ロシアを舞台にした壮大なスケールの漫画で、診察がないときでも「白いトロイカ」を読むために庄野医院に通ったものである。それからウン十年…。十年ほど前にフッと思い出して検索してみると、なんと復刻版が出版されるというではないか! 急いで予約してやっと手に入れたのが、今所有しているコミックである。
 何十年かぶりに読み返してみて、やっぱり名作だと思った次第である。作者の水野英子は手塚治虫と同様トキワ荘の住人で実力派の漫画家である。今の時代ではなく、1964年当時の時代背景を鑑みると、凄い漫画である。その後中2で読んだトルストイの「戦争と平和」の約30年後、農奴解放令の頃のお話である。そのためか帝政ロシアに興味が出て、ロシア語を独習したのも懐かしい思い出である。「ベルサイユのばら」に先んじること10年。時代の先見性が水野英子にあったということだろう。だから、「ベルサイユのばら」より「白いトロイカ」の方を私は評価している。
 
4位 ファイヤーフライ〈ほたる〉  大和和紀
  少女漫画が続くが、ご勘弁を。作者の大和和紀は「はいからさんが通る」で有名で、私も全巻持っていたのに、大阪から徳島への引越でどこかへ行ったきりである。この作品は、大和和紀の「はいからさんが通る」と同時期に書かれたもので、儚い純愛がテーマである。少女フレンドの別冊号の巻頭漫画であった。単発だったのでコミックにはなっていないと思っていたが、先ほど調べていて他作品との合巻「冬の祭り日」に収録されて出版されているのがわかったので、アマゾンで中古本を購入した。
  読み返してみて思ったのは、この漫画がなぜ心に残っているか理解できたからである。最終ページにある「私にもあんな頃があった」という台詞だ。沖田艦長の「何もかもみな懐かしい」の台詞同様、戻ることのできない過去への憧憬、懐かしさがにじみ出ていたからだ。
  また当時、梅花女子大学の教え子が主人公とそっくりだったので印象に残っている漫画でもある。本当に漫画チックな顔立ちの子だった。
 
5位 愛の時代   里中満智子
  全5巻のうち、第4巻がどこかへ行ってしまっている(+_;) 探せばどこかから出てくるだろう。母が読んで感動していた漫画である。婚外子がテーマであるが、最後まで見守ってくれた恋人が死ぬというストーリーは、「エースをねらえ!」と共通点がある。しかし、だからといってこの漫画のレベルが落ちるわけではない。ストーリー・テリングのうまさが光る里中満智子の名作である。
  これは4位の「ファイヤーフライ」の翌年の漫画で、この頃(昭和50年代前半)は、少女漫画が豊作であった。棲んでいたアパートの住人がいつも読んでいた「りぼん」・「マーガレット」・「少女フレンド」などを読破したうえでの、未だに印象に残っている作品だ。
 
6位 餓狼の森  松森正
  作者の松森正は映画にもなった「メス」で有名で、どちらを挙げようか迷ったが、みんなにあまりなじみのない方を選んだ。この作品は、音楽業界のディレクターが主役で、まず設定が珍しいこと、そして音楽業界の裏の汚い面が描かれていること、また実話としてありがちな内容が多いということから選んだ。「メス」も未だに全2巻を所有しているが、この「餓狼の森」は全1巻である。
  藤圭子がモデルのような少女演歌歌手が出てきたり、松森正の端正な細かい書き込みが現実感をしっかり持たせている。このコミックは古くなってきて、ちょっと紙が黄ばんできているので心配である。
 
7位 巨人たちの伝説   星野之宣
  現在所有しているのは、全一巻である。星野之宣の細い線と丁寧に書き込まれている図柄は大好きである。SF漫画の金字塔といってよいかもしれないと思っている作品である。脚色せずに漫画通りに映画にすれば、スケールやその世界観がよくわかる作品である。一度映画で見てみたいなぁ。
  作者の星野之宣は、この「巨人たちの伝説」を軸にいろいろ派生した漫画を描いている。つまり、これが彼のライフワークなのではないかとも思う。  
 
8位 きりひと賛歌  手塚治虫
  手塚治虫の医学漫画では「ブラックジャック」が有名だが、私はこちらの作品を挙げたいと思う。徳島の祖谷から始まる漫画で、漫画とは言えない松本清張並みの社会派ドラマである。般若党で呑みながら漫画の話になったとき、この漫画に対する評価では雲財世話人代表と一致した。
  初版のコミックは当時神戸大学医学部の学生だった仲間に貸したままで未だに返却されていない。そこで10年ほど前に新しく復刻版を購入した次第である。
  「白い巨塔」との共通点があったりするが、無医村をなくすにはやっぱり医局が必要だと、最近よく思う。
 
9位 紫電改のタカ  ちばてつや
  全巻あったのに大阪での引越でなくしてしまい、再度買い揃えたはずなのに、また2巻目がなくなっていた。またどこかから出てくるだろう。
  「ちかいの魔球」とどちらを挙げようか迷ったが、「ちかいの魔球」はコミックを持っていないので「紫電改のタカ」をランキングに入れた。ちばてつやの作品は大好きで、もういちど「ちかいの魔球」も見たいと思う。
 
10位 裂けた旅券(パスポート) 御厨さと美
  ビッグコミックに連載されていた漫画で、全巻コミックを持っていたのにどこやらいってしまって1巻目と2巻目だけになってしまった。仕方なくアマゾンで、中古本の7巻目までを購入した。
 第2巻からは22歳違いの元娼婦のマレッタと豪介の恋愛模様に変化していったが、フランスと日本の文化の違いなど非常にわかりやすかったし、作者の御厨さと美は本当にフランスに住んでいたのではなかろうかと思わせるぐらい詳しかった。ときどき読み返しては、夜中にニンマリとしている。 
 
番外 11人いる!  萩尾望都
  女流漫画家にもSFが描けることを証明した作品。本格SF漫画として確か賞をもらっているはずである。名前と顔がなかなか一致しにくいが、小説と違い顔が描かれているだけまだましか。サスペンスとして見ても一流作品である。
  萩尾望都の作品で「トーマの心臓」という漫画があり、それから森博嗣が自分の小説内に「都馬(トーマ)」という犬を登場させている。今うちにいる犬の名前はそれにちなんで「都馬」と母が名付けたものである。 
 
 大阪で6回引越をして徳島に引っ越したためか、「あしたのジョー」は最終巻のみ、「あぶさん」も1巻のみ、というように一部が欠けたり、逆に一部しか残っていなかったりして、コミックもほとんどバラバラになっている。「巨人の星」に至っては全巻紛失している。全巻揃っているのが、上記以外では「エースをねらえ!」と「火の鳥」・「ブラックジャック」である。「エースをねらえ!」は仕事上必要だったせいもあり残していたが、初版本だけにさすがに黄ばみやシミが多くなっていて、ページとページがくっついていたりする。
 あと、「男組」・「I・餓男(アイウエオボーイ)」・「傷追い人」・「クライング・フリーマン」などの池上遼一作品も大好きだったが、コミックとして持っていたのは「男組」だけだった。しかし、それももう1巻も残っていないのでランクから外した。
 
 漫画も小説も映画も表現方法が異なるだけで言いたいことは同じだと私は考えているので、どれも区別はしないつもりである。ストーリー・テリングのうまさや絵の美しさ、台詞の裏にある作者の伝えたい事柄などを重視している。
 まだ思い出せない漫画もたくさんあると思うので、映画ランキングと同じく暫定的な順位だと考えてください。
 
 また、いろいろな方のランキングも募集しています。エッセイでの投稿もお待ちしています。福本君、どうですか?